幸福なラザロ

2021/11/17

Movie

久しぶりに雑記も更新。書きかけのものをちまちま書いていますが、やっぱり何かイベントがある方が明確な締め切りがあっていいんだな、とつくづく思います。

ここのところ、ブルーレイとかで持っているものを何回か繰り返して観ていました。なので新しいものを観るのは少し久しぶり。レンタルビデオ店で借りてきました。

イタリアの小さな農村の農夫、ラザロはとても働き屋。他の村の人々からあれこれと言いつけられても、嫌な顔一つもしないで働いていました。けれども村は閉鎖的で、結婚をした二人がいて、村を出ていきたいと言っても許してもらえなかった。それもそのはずで、村人たちは小作人制度がとっくに廃止されたことを知らず、領主のタバコ園で働いていたのでした。
ある日タンクレディという領主の息子が村にやってきて、ラザロに近付きます。家を飛び出したタンクレディは、誘拐事件をでっち上げることにしたのですが、それがきっかけで村の存在が外部に知られるようになり、結果的に村人は小作人制度がとうに廃止されていたことを知ってしまいます。
ちょうどその頃、ラザロは熱を出して崖から落ちてしまう。村人たちが次々と村を出ていくいっぽう、ラザロは村に取り残されてしまいます。彼が目を覚ましたときには、領主の屋敷はすっかり埃をかぶっていました。そして、近くの街を訪ねると、そこにはかつての村人たちが身を寄せ合って暮らしていましたが、そこにいる人々は皆すっかり大人になっていたり、年をとっていた。

というのがおおまかなあらすじです。パッケージに誘拐事件が〜とか書かれていたので、農村で起きたサスペンス系なのかと思いきや、もっとファンタジーっぽい話でした。
印象的だったのは、ラザロの表情でした。まっすぐな目、といいますか。お人好しな性格なんですけれどもいつもにこにこしている、というよりは何か不思議そうな目で見ている雰囲気があります。時折見せる表情の変化がいっそう際立っているようにも思えました。
小作人制度が廃止されていたにもかかわらず、領主は自分の都合の良いように村人には知らせませんでした。村人たちもそのことを搾取されていたと怒る一方、見ていると村を出てからの生活もかなり厳しいものでした。頼りになるのは現金のみ、まともな職があるわけでもない。そうして詐欺や強盗、窃盗でその日暮らしのような日々。現金収入がなくとも、村での生活の方がまだまともだったんじゃないかと想わせるような……。決して裕福というわけでもなかったようですが、明るい陽の下でおしゃべりをしながら作業をしていたりしている前半部分が妙に懐かしささえも感じさせるような。対して後半は寒い季節なのか、灰色っぽい、そして寒くて薄暗いシーンが続いています。
そういったリアルな一面もありながら、ラザロと村人との時間の流れなど、御伽噺のような一面もあります。1番好きなシーンは、ラザロと村人たちがオルガンの音を聞いて教会を訪れるシーンです。
タンクレディとラザロの関係もどこか変わっていて、タンクレディはラザロにあれこれ言いつけたりしているのですが、信頼も寄せている一方、ラザロは彼の言葉をまっすぐ受け止める。兄弟かもね、と言う場面があるのですが、それは単に仲が良い二人というだけではなくて何かもっと不思議な繋がりを互いに感じ取ったのかな、と思ったり。すっかり大人になった彼と再会したときに、ラザロは嬉しそうにしているのですが結局なんだか切ない結末になっていました。タンクレディは領主の息子でしたが、領主が逮捕されてからは財産もすっかり取り上げられてしまっていて、かつてのものを村人と同様、もしくはそれ以上に失っていたので。

最後まで見ると、あらためて題名を見返してしまいます。「幸福な」? 幸福? と少し悩んでしまいます。彼の目には見えていたのかもしれないですけれど……。
ただ、それまで一番小さかったり、目立たないとされてきた存在が、何か強い意思や心の内を宿していたというのは、自分は結構好きだったりします。